新型インフルエンザの世界的蔓延で騒ぎになっている今、読むならこれだ! と思って読み始めてから3ヶ月以上が経過してしまった。文庫で全5巻とはいえ、なんたる遅読みか。こればかりずっと読んでいたわけではないけど、それでも時間かかりすぎである。遅々としてページを繰る手が進まなかったのは、決してつまらなかった、ということではない。後に産み出される傑作
『IT』
のための礎、と思うと非常に興味深い作品であった。でも、ストーリーにドップリと浸ることが出来なかったのも事実である。
大作ゆえに細かいところをつつき出すとキリがないのだが、大きなアラは以下の2点に集約される。
その1。ストーリーの大筋は「軍が秘密裏に開発していたインフルエンザが外部に漏れ、あっという間に蔓延し、人類は滅亡に瀕する」というもの。こんな全世界的な広がりをもった物語が主軸でありながら、作品内で語られるのはあくまで「アメリカの物語」(より正確には「アメリカ白人の物語」)でしかない。書き手はあのキングだから、勿論、細かいエピソードの多くはメチャメチャ読ませる。だが、その面白さは、「米国絶対主義」全開なノリによって粉々に打ち砕かれている(であるからして、風間賢二の巻末解説にある「本国アメリカにおけるキング・ファンの一番のお気に入りの作品」という評価は逆に肯ける)。これが、「ドップリと浸ることが出来なかった」ことの、主たる理由。
その2。インフルエンザ蔓延後、激減した(アメリカ合衆国における)人類は「善」と「悪」の二集団へと分かれ、やがて決戦の刻を迎えることとなるのだが、その「決戦」の決着があまりにもあっけない。ガップリ四つの横綱相撲を期待する普通の読者は、文庫版第5巻の338ページで呆然とすること必至(と思う)。これまた巻末解説によると、「多数のキャラクターを動かした上で、二集団の全面決戦を描くには作者の力量が足りなかった」(大意)とキング自身が自著
『小説作法』
で述懐しているそうなので、已むを得ない方策であったとはいえるが……それでも、なあ。
といった問題点はキング自身にも重々自覚があったと勝手に想像する。というのは、これらは『It』で見事なまでに克服されているからである。
「全世界」という広大な空間を描くのはキングの資質には元来不向きなのである。だったら、空間をデリーという一つの町に絞り込む。その代わり、時間軸方向に物語を拡げることにより、スケールの大きなストーリーを構築することに成功している。
また、「作中人口数の爆発」を防ぐための方策としては、謎の怪物ITの対決相手は「はみだしクラブ」の7名、と構図を明確化してしまう。これにより、ガップリ四つの「最終決戦」を描くことが可能となった。
かくして、本書の失敗を大いなる糧として、真の傑作が誕生したわけである。めでたしめでたし。
← 「完全版」が出たのは『IT』より後だったりしますが
posted by omsoc at 04:24|
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