備忘録も兼ねた「本の感想目次」はこちら                                           

2013年06月18日

「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」石持浅海

わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (碓氷優佳シリーズ)わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (碓氷優佳シリーズ)
石持 浅海

祥伝社 2013-05-16
売り上げランキング : 5736

Amazonで詳しく見る
by G-Tools



 本格ミステリ史上指折りの極悪探偵・碓井優佳、四度降臨。
 それが何と、彼女の高校時代を描いた連作短編7作とは、完全に意表を突かれた。女子高生の碓氷優佳ーーもう、この設定だけで、もう負けた、と思いましたよ。表紙(上をご参照あれ)と中のイラストの可愛らしさが泣かせてくれる。ああ、イラスト担当のもりちかさんにインタビューしてみたい。

 さて、内容は、女子校生活3年間の日々で起きる些細な「日常の謎」を優佳が解き明かしていくというもの。
 
しかし優佳は違った。彼女は一見何もないように見える物事から、問題そのものを見つけ出し、解答を導くことが出来た

 と冒頭作中にあるように、何がそもそもの「謎」なのか判然としないケースが多く、読者が自らの推理を働かせる余地がいくらか欠けているようには感じたし、オチも何だか他愛もないような……。それでも、やはりロジックの切れは、この作者らしく、結構楽しめた。
 なんて思いつつ迎えた最終作の『優佳と、わたしの未来』、こいつがタダモノではなかった。作中人物の一人が「事実はひとつなんだから、仮説にいくら整合性があっても意味ないか」とのたまうように、メインとなる謎の解は、あまりロジカルなものでなく「事実ありき」で、本格ものとしては破綻気味。ただ、(以下、いくらかネタバレ気味なので、以下、白文字)そこから、この短編集を結ぶ(シリーズ完結、でもいいかもしれない)に相応しい展開が待ち受けていた。これもネタバレ気味なので、上には書けなかったことだが、ここに至るまでの6作が、いかにも「青春ミステリでござい」的な作りで、「んんん?」と思っていたところに、納得がいくという仕掛け。 「優佳」という「装置」を使い倒し、この作者にしては珍しく感情移入可能な結末に、座布団5枚は積んでもいいぞ。実は、前3作は、これをやりたいがための壮大な伏線だったりすると凄いよなあーーと想像を膨らませてしまった(石持浅海なら、強ち、あり得なくもない?)。

 というわけで、「著者のことば」には「(碓井優佳の、他作品での悪魔活躍振りを)まだ知らない方は。ごく普通の学園日常の謎ミステリですので、安心してお読み下さい」とあるが、少なくとも『扉は閉ざされたまま』は読んでから臨んだ方が、断然楽しめるということは強く言っておきたい。

 『彼女が追ってくる』はいくらかションボリな出来だったが、見事にリカバーしたので、今後の展開に大いに期待してます(って、続編構想はあるんでしょうか)。

 こちらのアンテナが鈍っているだけかもしれないが、何かひっそりと刊行されてませんかね。出てから1ヶ月も経つのに、全然気付かなかったもんなあ。気付かせてくれた書評サイト「黄金の羊毛亭」に深く感謝する次第であります。

banner_01.gif←多々、登場する「どの口が抜かしやがる」なセリフの中、最強なのは『握られた手』のラスト
posted by omsoc at 00:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月24日

「アルカトラズ幻想」島田荘司

アルカトラズ幻想
アルカトラズ幻想島田 荘司

文藝春秋 2012-09-23
売り上げランキング : 26662


Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 久々に御大のミステリを読んでみた。あまりにも歪な構造ゆえに、新人賞に投稿された作品だったら受賞に至ることはまずなかろう、というのが最初の印象。

 謎の猟奇事件で幕が上がり(第一章「意図不明の猟奇」)、これがメインの事件なのかなと思ったら、古生物学に関連する科学論文が登場し(第二章「重力論文」)、第一章で語られた猟期事件は解決。そして、この事件の犯人が監獄から脱獄し(第三章「アルカトラズ」)、正しく「意味不明」と言いたくなる幻想譚に至る(第四章「パンプキン王国」)。どのくらい「意味不明」なのかは、是非、自分で読んで確かめてみて下さい。
 この四章の繋がり具合は、喩えるなら「風が吹けば桶屋がもうかる」。つまり、直前・直後の章とは、一応繋がっているんだが、間に一章挟むと、内容がほぼ乖離している。つまり、第三章に対して、あの第一章である必然性は殆ど皆無だし(必ずしも、アルカトラズに送られる囚人は、あんな猟奇事件の犯人である必要はない)、第四章と第二章の関係についても同様。間に二章挟んだ、第一章と第四章なんて、もう完全に別の小説と言っていいくらい、何の関係もない。「起承転結」なんて四字熟語をあざ笑うかの如く、「起転転転」で出来上がった小説なのである。
 一応、ミステリなので、エピローグで「結」は付くんだけど、第一章はどこに行ったんだあ、というようなオチで、「予測不能、驚愕の結末」というオビ文句は全くその通りであった。

 と、こう書くと、不満タラタラなように響くであろうが、読後感はその全く逆で、かなりの傑作という評価。御大の小説の中でもベスト5級ーーとまで言うと、賛同してくれる人は少ないだろうが、個人的にはそのくらいの満足した。
 思い返せば、『占星術殺人事件』にしろ『斜め屋敷の犯罪』にしろ、はたまた『北の夕鶴2/3の殺人』にしろ、御大が書くミステリにおける最大の魅力は、小賢しい計算なんかクソ喰らえと謂わんばかりの無茶(注:褒め言葉である)と、それをカバーして尚余りある豪腕振りにある。その豪腕振りがーー物理トリックについてではなく小説構造に関してという方向性の違いはあれどーー久々に炸裂して、いや、本当に堪能した。ホント、ここまでやってくれると清々しい。

 いびつ過ぎたせいか、今年の本格ミステリ大賞候補としなかった判断は良識的ではあるが、それでも残念である。少なくとも、以前、大賞の候補に挙がった『摩天楼の怪人』よりは遙かに出来がいいと断言出来るので。

banner_01.gif← 御大の復活を実感。次は御手洗ものの傑作を期待
posted by omsoc at 08:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月22日

「不可能楽園 〈蒼色館〉」倉阪鬼一郎

不可能楽園 〈蒼色館〉 (講談社ノベルス)
不可能楽園 〈蒼色館〉 (講談社ノベルス)倉阪 鬼一郎

講談社 2012-09-06
売り上げランキング : 266812


Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 「講談社ノベルス創刊30周年記念感謝祭」の一環として行われている「密室本2」プレゼント。応募するには、今年の5月〜12月までに出た講談社ノベルスを3冊購入して応募券を入手せにゃならない。『汎虚学研究会』 (竹本健治)『ベスト本格ミステリ2012』 (本格ミステリ作家クラブ・編) の2冊までは、即買いだったのだが、3冊目をどうするかで困ってしまった。切実に読みたいものがないんだよなあ。
 悩んだ末、「バカミス」と評判のシリーズで、以前からいくらか気になっていたこと、そして何より薄さとで(厚い本を読む時間がないのよ)、本書に決定。早速読んでみた。

 ……ううん。これはダメだ。152ページまでは、まあ悪くない。んが、そこから先、バカミスとしての真価が問われる153ページ以降が、ダメだ。
 早い話、ミステリ史に残る傑作バカミス2作のネタを、多少は変形させているとはいえ、単に引っ張ってきただけじゃねーか。「傑作バカミス2作」の一方(これ)は探偵自身が冤罪をこうむるという状況が、あのネタの炸裂に寄与しているわけだし、もう一方(これ)のネタは作中で披露されるマジックと直結しているというのがミソ。そういった設定の妙もないし、元ネタを一段高めるような捻りもなく再利用されたのでは……「傑作バカミス2作」に懺悔して欲しい。
 さらに「年に一度のバカミスの季節がやってまいりました」という作者のことばが気に喰わねえ。「バカミス」はある種の狂気が読者を酔わせることで完成するものだろう。しかし、作者が狂気を自覚した時点で、狂気は狂気ではなくなる。「どうだ! これがバカミスだ!」よいう類の作者自身のオコトバは、読者を白けさせるだけ。自分のネタを笑いながら披露する漫才師の漫才を鑑賞して、心の底から面白いと思える?

 先に書いた通り、完全バカミスに移行するまでは悪くない。「人畜を混同させる」のは前例多数だが、「しゃべるオウムを使う」というのは、新機軸なのでは。それと、「新幹線に飛び乗る」という無理筋なアリバイトリックは結構好み。しかも「死体役がすさまじくうまい」という意味不明なエクスキューズが素晴らしい。なので、152ページで止めておいてくれれば、こうも悪い印象にはならなかった。
 ネット上の書評を幾つか覗いてみると、どうやらシリーズの他作品も似たような趣向で「バカミス」と名乗っているように見受けられたので、手を出さない方が無難か。

banner_01.gif← 編集担当の方! オビ文句のネタバレはヒドイが、加えて、表4のあらすじもかなり微妙ですぜ(「山形県」の繰り返しが不自然)
posted by omsoc at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月16日

大森望氏に告ぐ

 と書くと何やらスゴイことをもの申す感が漂いますが、大したことではないっす。
 先日出た『本の雑誌』2013年1月号

 「(来年出版予定のコニー・ウィリス『オール・クリア』は)ハヤカワ・ポケット・ブック史上初の上下巻になる予定」

 と氏が書いておられるのだが、ええと、それはP.D. ジェイムズの『死の味』が先(って、もう四半世紀ほど前ですが)なのでは。「ハヤカワ・ポケット・ブック」って、ポケミスも含むと思うのだが、違うのかしらん。
 「ポケミス初の上下本! キリ番1500ゲット!」ということで話題となった当時を覚えているロートルなミステリ読みとしては、何だか悔しかったので、ちょっと書いてみた。omsocはtwitterなどやっていないので、誰か、氏に伝えて下さると嬉しい(既に誰かが言っているような気もするけど)。
 ただ、これだけだと感じ悪いので、「『ブラックアウト』、発売直後に買って、読まずに保存してあります。『オール・クリア』が出たら、まとめて読もうと思ってますので、翻訳、頑張って下さい」という応援メッセージも、合わせて伝えて下さい。m(_o_)m

banner_01.gif← 約1年ぶりに書く記事が、こんな内容ってえのは、どうなのか
posted by omsoc at 16:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月12日

「奇面館の殺人」綾辻行人

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)
奇面館の殺人 (講談社ノベルス)綾辻 行人

講談社 2012-01-06
売り上げランキング : 198


Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 「シリーズ:『シリーズ』を読む」その2(その1はこちら)。って、その3があるかどうかは不明ですが。
 本当のところ、「館」シリーズが「信頼出来る」かどうかは微妙なところだし、この作者に至っては裏切られたこと幾度、なのだが、近作『Another』の出来が良かったのと、「館」シリーズ奇数作良作説(『暗黒館の殺人』は微妙だけど、あの冗長さを切り詰めてさえいれば、まあ悪くない作品になった筈ーーと思うことにしておく)という持論があるので、それらに従いつつ、でも幾らかおっかなびっくりな気分で読んでみた。
 意外、と言ったら作者には甚だ失礼だが、良作でした、本当に。

こんなとんでもない状況は前代未聞ではないか、と思う。現実に起こった事件については云わずもがな、古今東西、さまざまなミステリの物語中で描かれた事件を見渡してみたとしても。

 と作者が、作中の探偵役にわざわざ言わせているような空前の状況下で事件は推移する。どういう状況なのかは、タイトルやらオビ文句やらから、概ね想像は付くと思うが、しかし改めて情景を想像してみると、こりゃギャグかバカミスか、である。この大胆な設定にまず座布団1枚。
 で、その「状況」の理由に座布団1枚。いささかネタバレ気味なので一部伏せ字とするが、ネタは、ミステリを読んでいる人こそ気付きにくいというか先入観が邪魔をするというか、なものであり、連想したのはこれ
 この点については、死体の「首切り」も同様で、そのコンビネーションにも座布団1枚。「顔がない死体、または顔が隠れている人物」が出てくるとついつい「入れ替わり」とか「二人一役/一人二役など」の可能性を考えてしまい、そのバリエーションを疑ってしまうのはミステリ読みの宿痾である。そこに追い打ちを掛けるように、十指が切り取られているし、さらに登場人物が記号化されているという点が共通するシリーズ先行作が脳裏に散らついてしまうと、もうダメである。そういう狭窄化した思考の裏をかいた作品が既にあるにも関わらず(上に記した「これ」がその典型例)、今回もまんまと引っ掛かってしまった。
 加えて、導入からして仕掛けめいた匂いが猛烈に漂っていて、つまり、鹿谷門実は「代役」で、直接招待されたというプロットにしなかったのは何故だろうと疑念を抱いているところに、読み進むにつれ明らかになる「前代未聞」な状況が重なると、これまたついつい「代役を依頼した日向がアヤシイ」という隘路に陥る(私だけか?)。この導入にも、ミステリ的にきちんとした必然性が勿論あったわけだが、ミスリーディングの計算が行き届いていて、その仕掛けの正体が上手く隠蔽されていると感じた。ここにも座布団1枚。
 その他にも様々なトリックが隠されており、その1つ1つは小ぶりだけど、丹念に磨いたそれらをキチンと収まるべきところに収めたその手練は実に見事。大仕掛け一発で驚倒させるような往年の派手さはなくとも、職人芸で唸らせる円熟の域に綾辻センセーも達せられたのかと感慨を深くした次第。「八百枚超」(作者あとがき)の長さで事件は1つしかおきないにも関わらず、全く長さを感じない小説技法(『暗黒館』への「ムダに長い」批判を真摯に受け止めた作者はエライ)にも座布団を追加ーーということで、積み上げられた座布団の枚数は相当なもの。なら豪華賞品進呈ということで、本格ミステリ大賞を差し上げたい。いや、本当に獲っても全然不思議ではないし、この作者の新たな代表作であることも間違いない。
 伏線の張り方が丁寧なので(贅沢を言うと「論路のアクロバット」があると最高だった)、読んでいる途中でトリック・犯人を看破する読者は多数いると思う(カンの悪い私は全然ダメだったが)。しかし、それはこの作品の場合は決してマイナスではない。マジックの大半は、そのタネを知ると「なんだ」と呆気なさしか残らないが、中にはタネを知ってその仕掛けの巧みさに改めて感心させられるものもあり、『奇面館』は後者のタイプに属する本格ミステリであるのだから。

 直接的なネタバレも含めたコメントいくつか。
 - タイトルの読みが共通という理由だけで読む前からこれを連想していたら、「首切り」の理由の方向性が似通っていて勝手に納得。それとも、これも一種の伏線っすか?
 - 過去作つながりということでは、「容疑者が同姓同名だらけ」という趣向から思い出すのが、当然これ。すると最近出たこちらも想起するわけで……時期が重なったのは単なる偶然だろうが、面白い。
 - 登場人物による「自慢語り」(414頁)はちょっと品がないようにも思うが、出来が良かったから許すことにしようか。
 - 細かいツッコミどころもいろいろあるけど、全体の出来が良かったから以下同文。ただ、一度会って違っていれば、何度会ったところで<もう一人の自分>にはなり得ないんではなかろうか(ある種の「狂人の論理」だからツッコミ入れても仕方ないんだろうけど)、という点は妙に気になったので書き残しておく。

banner_01.gif← 偶数作は「ハズレ」気味、ということは次回完結作は駄作の予感……全十作ではなく全十一作にしてもらえないだろうか
posted by omsoc at 00:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月07日

「彼女が追ってくる」石持浅海

彼女が追ってくる (碓氷優佳シリーズ)彼女が追ってくる (碓氷優佳シリーズ)
石持浅海

祥伝社 2011-10-26
売り上げランキング : 100151

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 環境がいろいろと変わり、ここしばらく、殆ど本を読む時間がない。いや、時間はそれなりに作れると思うのだが、気力がない。
 こうなると、地雷本は極力避け、安全パイーーつまり、信頼できる作家の、信頼出来るシリーズを読むことになる。

 ということで、選んだのが本書。事件が発覚するまでを描いた『そして扉が閉ざされた』、事件が起きるまでを描いた『君の望む死に方』、と倒叙ミステリの新たな展開を開拓してきた「碓氷優佳シリーズ」(といつの間にか命名されたようである)。今回の趣向は「この手で殺した、かつての親友が握る謎のメッセージ」(オビから引用)、つまり「既に死んだ被害者 vs. 犯人」という構図なわけだが、これって単に「ダイイング・メッセージ」ものということだからなあ。「被害者 vs 犯人」が必ずしもメインではないが、例えば古畑任三郎の幾つかのように「倒叙 & ダイイング・メッセージ」の前例はあるわけだし。
 加えて、この「謎のメッセージ」の取り扱い方がご都合主義過ぎる。ペアの片割れが見つかったら、もう片方はどこなんじゃろかと考えるのが普通で、揃いも揃ってそこに頭が回らないなんてことがあるかね。
 で、そこに思いが至ると、ミステリを成立させるための制約とこの作者の癖とから、その所在の見当が付いてしまうし、さらに芋蔓式に結末の方向も読めてくる。構造がちょっとストレート過ぎて、この辺りもどうかと思う。
 読みどころは、探偵が犯人に気付くきっかけと、警察の介入を巡っての探偵と犯人との攻防戦くらいか。それより何より、短くてサクサク読めるのは、実に有難い。
 一時期流行った「人間が描けていない」という言葉は、この作者のためにあると前から思っているが、ともかく相変わらずの感情移入不能っぷりを堪能出来たから、個人的にはまあいいかな。そもそも、あんな動機で本当に殺すかね、と思っているところに、いえいえ殺し合いなんです、と畳み掛ける無神経っぷり大胆さには、心の底から平伏しますわ。

 三部作というのが元々の構想だったと記憶しているのだが、これで終わりというのは寂しいので、捲土重来を期待したい。

banner_01.gif← さて、上の文章にはミステリファンを自称するには致命的とも言うべき誤りがあります。どこでしょう? 
posted by omsoc at 04:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月22日

「シャドー81」ルシアン・ネイハム

シャドー81 (ハヤカワ文庫NV)シャドー81 (ハヤカワ文庫NV)
ルシアン ネイハム Lucien Nahum

早川書房 2008-09
売り上げランキング : 142982

Amazonで詳しく見る
by G-Tools



 今や古典と呼ぶに相応しい傑作娯楽小説の一つ。一昨年にこの名作を再刊した早川文庫版のオビには「冒険小説の新たな地平を切り拓いた」という売り文句が踊っているが、強ちウソじゃあない。何十年かぶりの再読なのだが、「ベトナム戦争」という時代設定を別にすれば、全然古さを感じなかった。
 一言でまとめると倒叙形式の誘拐小説(の変形)で、「誘拐」の卓越した設定だけで、この作品の成功は保証されたと言ってもいい。計画の準備段階を描いた第一部が前半約1/3を占め、そこを読み終えると、いよいよ計画が実行に移される第二部が待っていて一気読みである。
 欲を言うと、ほぼ犯人側の計画が卓越し過ぎていて、警察側が為す術もなく、ほぼ予定通りに事態がスルスルと進行してしまう展開に一捻りあると嬉しかったかも。酸素漏れのくだりなんかは膨らませようがあったようにも思うし、ロートル記者バーニーの話は全体から浮いている。

 とまあ、完璧ではないけれども、今読んでも秀作であることは間違いない。また絶版になってしまうかもしれないので、入手可能な今の内に是非一読を。

banner_01.gif← 出来れば、オビもあらすじも表紙絵も見ずに、予備知識なしで読むのがベスト(って無理か……) 
posted by omsoc at 04:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月19日

「セカンド・ラブ」乾くるみ

セカンド・ラブセカンド・ラブ
乾 くるみ

文藝春秋 2010-09
売り上げランキング : 14255

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


だって、この人の場合はいつもラストで驚く。二編ともそうだ。ほとんど伏線がないだけに本当に度肝を抜かれる。たちの悪いお化け屋敷みたいな感じ ーーー『密室本 メフィスト巻末編集者座談会』講談社ノベルス編集部・編


 「三つ子の魂百まで」というか何というか。
 乾くるみの最新作は正しく「たちの悪いお化け屋敷」であった。いやはや。はっきり言って、『イニシエーション・ラブ』のオチなんて、これに比べれば可愛いもんだ。
 本作を本格ミステリと呼んでいいのかどうか。でも本格ミステリファンなら、やっぱり読むべきだと思う。
 釈然としなかった点を敢えて書くと、感触(触感)で同一人物とは分からないものかね。性経験が少ないと厳しい、てか?

banner_01.gif← 引用箇所にある「二編」というのは『匣の中』『Jの神話 』のことです。一応、念のため

posted by omsoc at 22:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月22日

「僧正殺人事件」ヴァン・ダイン

僧正殺人事件 (S・S・ヴァン・ダイン全集) (創元推理文庫)
僧正殺人事件 (S・S・ヴァン・ダイン全集) (創元推理文庫)S・S・ヴァン・ダイン 日暮 雅通

東京創元社 2010-04-05
売り上げランキング : 19200

おすすめ平均 star
star黄金期の一大傑作!
star「だあれが殺したコック・ロビン?」
starヴァン・ダインのイチオシ!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 「夏休みは原典に還ろう!」ということで(誰もそんなことは言ってません)、ウン十年ぶりに再読。いや、単に創元推理文庫の再刊で気になっただけです、ごめんなさい。
 再読してビックリ。こんなに空疎なシロモノだったとは。泣く子も黙る古典名作の筈なんだが、こりゃ、単なる「古典」だ。「名作」と呼ぶにはあまりに厳しい。
 巻末収録の解説が、的確で感心してしまった。書いたのは山口雅也だから当たり前か。
 
『僧正殺人事件』の魅力・読みどころを端的に要約すると。イギリスの伝承童謡マザー・グースを初めて題材として本格的にミステリに採用して、無類のサスペンスを醸成したアイディアの妙ーーということになるだろうか。

 全くもってその通りなんだなあ。つまり、あくまで「マザー・グースを初めて本格的に『採用』」という点に限ってこの作品の創意工夫があるわけで、「どう使ったか」については、呆れるくらいに何もない。「単に童謡をなぞって殺してみました」って、なあ。
 これは「童謡殺人」の部分に限ったことではなく、本格ミステリとして読むべきところは殆どゼロ。伏線とか手掛かりなんて皆無だし、ファイロ・ヴァンスの推理はとても論理的とは言い難くーーなぜに、これを「本格ミステリ」とラベリングしているのかと、東京創元社にお伺いのメールを出してみたいくらいである。
 ミステリ初心者が読むと、これはこれで感動出来るのだろう。オールタイムベストでは、未だに上位にランクインすることが多いし、ガイドブックの類も「まずは基本」みたいな形で勧めるので、「まだ純情無垢な頃に読む → 感銘を受ける → その記憶が美化され固定される」というインフレスパイラルみたいな循環構造が出来ているのかも。
 なので、今やすれっからしのミステリ読みとなった方々に改めて再読することを強く勧めたい。皆さん、いつまでも騙されたままではダメだっ!

banner_01.gif← ついでにエラリー・クイーンの偉大さもよく分かるでよ
posted by omsoc at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月06日

「天冥の標 II 救世群」小川一水

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)
天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)小川 一水

早川書房 2010-03-05
売り上げランキング : 32524

おすすめ平均 star
star一変
star驚きの急展開
star面白いなんて言ったらもったいない

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 全10部とされている『天冥の標』シリーズの2作目。私はこの作者さんと相性が合わないことを学習済みなので、シリーズそのものに興味はなく読む気もさらさらなかったのだが、本作に関しては「単独で読んでも可」「パンデミックものの傑作」という評判を聞いて、手に取ってみた次第。

 ……あたしゃ、SFが読みたかったんだが、これじゃ、近未来ポリティカルノベルじゃねーか。ウィルスの出自とか、全世界的蔓延を防ぐための手立てとかに「センス・オブ・ワンダー」的なものを期待するのはSF読者の端くれとしてはごく自然なことではなかろうかと思うのだが、そういう期待には殆ど一切応えてくれまへん。思わせぶりに登場するガジェットの幾つかについても「詳細は次作以降!」てな感じで、本作だけ読んでもどうしようもない。かと言って、次作を読みたくなるほど、ネタの引っ張りが魅力的というわけでもなくーー何とも虚しい読書体験であった。

banner_01.gif← 合わない作家とはとことん合わない、ということかな
posted by omsoc at 22:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月12日

「UFO大通り」島田荘司

UFO大通り (講談社ノベルス)
UFO大通り (講談社ノベルス)
講談社 2008-10-07
売り上げランキング : 44511

おすすめ平均 star
starちょっと甘い評価かも
star横浜時代のミタライ&石岡君が大活躍するファンはたまらない作品
starまずまず

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 御手洗潔ものの中編2つを収録。
 密室の家屋にて、シーツを全身にくるんだ上、手袋・マフラー・ヘルメットを装着し、全身完全防備で怪死した男。そこに、現場の裏山では宇宙人が戦争をしていたという目撃談の謎が絡む表題作「UFO大通り」。
 夕立の降りしきる中、自分の差していた傘を車に轢かせて折ろうとしていた女。ラジオから流れた奇妙な目撃談から、その背後に潜む犯罪を御手洗潔が見事に暴き出す「傘を折る女」。
 
 不可解な現象を数多くばらまいておいて、それらを極力シンプルなネタ一発で、落ち着くべきところに落ち着かせ、綺麗に仕上げるのが島田ミステリの真骨頂ーーと思う向きには、表題作がオススメ。「UFOの正体は道路清掃車」という見立てはあまりに豪快過ぎだが、後半で現れる銀色に染まった死体の謎など、「宇宙人」をキーワードとした奇怪な現象の数々を合理的に説明付ける手腕はさすが御大。
 一方、「傘を折る女」では、『九マイルは遠すぎる』を地で行くような安楽椅子探偵ぶりを御手洗潔が見せ(情報元がラジオという辺りは、御手洗ものでも屈指の短編と定評のある『糸ノコとジグザグ』を彷彿とさせる)、瞬時にして事件解決!と思わせておいて、もう一捻りあるのがなかなか。被害者の発言の数々も読ませてくれます。

 惜しむらくは、重要なネタが2つの中編で被っていること(さらに、このネタは、メインとしての扱いではないが、やはり御手洗もののある中編で既出である)。御大としては「こんな見せ方も、あんな見せ方も出来るんですよ」というつもりで、完全に狙ってのことなんだろうが、やはり驚きは減殺される。もちっと、どうにかならんかったものだろうかーーと平凡な一読者は思ってしまうのである。

banner_01.gif← むしろディープでない御手洗ファンに向いている中編集かも
posted by omsoc at 00:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月24日

「密室殺人ゲーム2.0」歌野晶午

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)
密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)
講談社 2009-08-07
売り上げランキング : 45182

おすすめ平均 star
star祝・第10回本格ミステリ大賞受賞
star5作ぐらい続けてほしい
star殺人ゲームはまだ終わらない

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 すごく大昔に読了済みなのだが、感想を書き損ねていたので、ミステリ大賞受賞(これも既に昔の出来事となりつつあるが)を寿いで一言二言。
 方や物議を醸し、方や快哉を叫ばれーーという評判だった前作は本格ミステリ大賞候補に上がり、候補作5本の中で最下位という結果に終わった。それから僅か2年後、続編の本作が見事に受賞。この2作に対する評価の差は一体何なのだろうか、というのが私の素朴な疑問である。
 前作からの継続性(ずらし方)がポイント? 前作がああいうオチなので全く続編なんて予想してなかったよ!(前作の最終頁には"To Be Continued!?"という思わせぶりな一文が躍っていたりするなんてことは、すっかり忘れてた)ということで瞬間的な驚きはあったが、「前作最終章以前の時点に遡った」「別人が行っている」「1/4の賭けに勝利して無事全員生還」くらいのことはボンクラ読者でもパッと思いつくわけで、実際にその「パッと思いつくこと」の1つに該当しているのだから、ミステリ的にはさほど捻ってあるわけではない(余談だが「全く同じハンドルネームを使う」というのはあまりリアルではないように思う。微妙に違うハンドルネームを使うのが普通ではなかろうか)。
 前作と対になる展開は確かに目白押しで、大きなところだけでも、「Q3:切り裂きジャック三十分の孤独」のトリックは前作の「Q5:求道者の密室」の凄まじい忍耐力を彷彿とさせるし、「Q4:相当な悪魔」は前作の「Q7:密室でもなく、アリバイでもなく」のバリエーションに思える。また、同一ネームを持つ人物の振る舞いや末路にも深い対応関係が見られる。ただ、「前作のアレが伏線となってこそ成立する」とか「インパクトが一層増している」というものではないので(むしろ、前作の存在ゆえに衝撃は減殺されている)、「ずれ」という観点で特筆すべきものがあるとは思えない。
 本作が本格ミステリ大賞に値しない、と主張したいわけでは決してない。ただ、本作の魅力はやはり「動機そっちのけの殺人ゲーム」という大枠の設定に尽きてしまうように思える。本作を受賞させるくらいなら、そもそも前作が大賞の栄誉に輝いてしかるべきだったのではーーと感じられて仕方がない。それとも、前作の時点でも、まだ時代の先を行き過ぎていて、2年経ってようやく時代が設定に追いついたということなんだろうか。
 
 「同一作家の複数回受賞を認めない」というルールは、いかにも日本的な発想に基づく悪平等だろうと前々から思っていた。それでも、SF界には星雲賞が、冒険小説界には日本冒険小説大賞があったわけなんだが、そんなところに本格ミステリ大賞が登場。そして、現実に複数回受賞を達成した事例が誕生したことはミステリ界にとって大いに意義あることだろう。2回だけと言わず、3回、4回ともっと受賞回数を増やすような、より一層の活躍を歌野晶午氏には期待しています。
 
banner_01.gif← 「もともと三部構成」ということには心底ビックリした(「綾辻行人データベースAyalist」2010年5月16日(その7)参照)
posted by omsoc at 04:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月17日

「水魑の如き沈むもの」三津田信三

水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)
水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)
原書房 2009-12-07
売り上げランキング : 3664

おすすめ平均 star
star最後に失速 -失敗作だと思います-
star民俗ホラーとミステリが同時に楽しめます
star傑作シリーズ

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 「本作が第10回本格ミステリ大賞を受賞」(歌野晶午『密室殺人ゲーム2.0』との同時受賞。ソースは「パン屋のないベイカーストリートにて」2010年5月15日の記事)と知って、心底たまげたomsocである。ふええ。
 「真相を完全に掴み切れないまま、探偵が見切り発車式に解決編を始めてしまう」という展開は一種のギャグだと思うことにするが、それでもこのユルユル感はどうなんだろか。仮説の一つはロジックによってではなく、探偵の犯人候補に対する「印象」で片付けられてしまうというナンセンスさには呆然。重要登場人物の一人である水使竜爾の取った行動は、心理的に殆どあり得ず(あそこまで生贄を捧げることに執念を燃やす以上、樽味市郎の際に失敗したことを察したなら、蓋を目立たぬように釘付けするなどして、二度と同じ過ちを繰り返さぬよう善処するのが普通。小夜子が樽抜けしてしまったということは、何の対処を行わなかったとしか思えず、ご都合主義的としか言い様がない)、肝心の水中密室の謎を読者が論理的に看破することは無理だろう。
 解決編の冒頭で列挙された疑問点も、犯人が二転三転するうちに、解消されたんだかされてないんだか、よく分からないことになって(前後のつながりで「まあ、こういうことか」と想像は出来るが)、とにかくなまじ論理性に配慮したのが裏目に出ている。いっそ、トリックとストーリーで、読者を押し切ってしまうような方向で構成するとよかったんではなかろうか。

banner_01.gif← 半分近くまで事件らしい事件が起きず、後半、一気に物事が進んでしまうバタバタ感もマイナスでした
posted by omsoc at 00:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月03日

「新参者」東野圭吾

新参者
新参者
講談社 2009-09-18
売り上げランキング : 119

おすすめ平均 star
star新趣向
starドラマ向き
star飛騨の地ビール・・・

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 決して悪い作品ではないけど、「このミス」で1位に輝くほどの出来かなあ、というのが正直な感想。
 各章が時系列順に並んでいると勝手に思いこんで読み始めたら、実は複雑に絡み合っていることが分かって、その瞬間は「おお! 東野圭吾! なんつう超絶技巧!」と快哉を叫んだけど、そのテクニシャンぶりがミステリの面白さに貢献しているとは思えない辺りが、まず微妙。
 加えて、これを連作短編と見るか、単なる一長編として見るか、という問題もある。前者の立場を取ると、第8章のように単独では殆ど意味がないものがある点が疑問だし、後者だと、真犯人が姿を現すのがちょっくら遅すぎる(今更「ノックスの十戒」でもあるめえ、という見方もあるとは思うが)というのが何とも。という次第で、どちらにしても中途半端で何だか釈然としないのである。

 現在放映中の連ドラについては、ああも愁嘆場たっぷりな作りに仕立て上げてしまう辺り、さすがは日曜劇場だと感心してしまった。感心はしたけど、私にとっては2話分も観ればもうお腹いっぱい。脚本家の方の健闘をお祈りします(コノイチブン、アマリココロガコモッテナイ)。

banner_01.gif← 傑作佳作ではないとはいえ、読むに値する本格ミステリを書き続けている点には、素直に頭が下がります
posted by omsoc at 03:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月31日

「追想五断章」米澤穂信

追想五断章
追想五断章
集英社 2009-08
売り上げランキング : 51229

おすすめ平均 star
starミステリーの歴史に残るべき傑作
star楽しめる作品
starリドルストーリー

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 今年度の本格ミステリ大賞候補作5編のうちの1つ。
 叔父が営む古書店に居候を決め込む芳光に、ひょんなことから舞い込んだある女性からの依頼。それは、亡父が生前どこかに発表した5つのリドルストーリーを探し出して欲しいというものだったーーというのが話の主旨。ミステリとしての読みどころは、「新本格」以降盛んとなった「連作短編全体に一つの仕掛けが施されている」という趣向のバリエーション。実現にはかなりの技巧が必要で、全く方向が違うながらも泡坂妻夫先生を連想した。カンの鋭い方は、早々に作者の狙いを見破れるのかもしれないが、私はそっちの方向を全く考えてなかったので、第7章で「おおっ」と思わされてしまった。昨今の長編ミステリとしては分量軽めなのだが、密度は濃い。

 ミステリから外れた部分では、登場人物それぞれが抱えているやるせなさ、バブル崩壊間もない平成4年という時代設定、そして作中に挟み込まれたリドルストーリーの悪趣味さ。それらが産み出す一貫した閉塞感が妙に魅惑的であった。以前読んだ『インシテミル』もある種の閉塞感に蔽われていた物語だったが、ただそれは徒なものと思えて、あまり受け入れられないものだった。それに対し、本作の閉塞感はこの物語を推進するために不可欠なもので「あり」である。
 
 「リドルストーリー」のほぼ同義語として「オープンエンド」という小説用語があることは周知のことだ。文字通り「開かれて」終わる物語。だが、リドルストーリーこそ、実は「閉じた」物語なのかも知れない。そんなことを、最後の一行を読んだときに考えた。

banner_01.gif← 作中小説の出来もさることながら、作中書簡が輪を掛けて圧巻でした
posted by omsoc at 02:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月20日

「99%の誘拐」岡嶋二人

99%の誘拐 (講談社文庫)
99%の誘拐 (講談社文庫)岡嶋 二人

講談社 2004-06-15
売り上げランキング : 185590

おすすめ平均 star
starプロットが不磨すぎてシステムが異常をきたす
star岡嶋二人の最高傑作
star引き込まれる

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 言わずと知れた誘拐サスペンスの傑作を約20年ぶりに再読。「誘拐もの」に限定すれば、古今東西これまでに書かれたミステリーで五指に入ると言っても過言ではない力作である。発表当時に読んだ際の興奮は忘れられない。
 岡嶋二人が(少なくとも井上夢人が)「人間を描く」ということに、どちらかと言うと後ろ向きであることは『おかしな二人』に記されていたと記憶しているが、事件の主役・生駒慎吾の描き方は見事だ。この人、どう考えてもゲーム作りの天才なわけで、なら、それでソフト売って大儲けすることを考えるのが普通。こんなリスキーな犯罪に手を染めるなんて、殆ど狂気の沙汰である。だが、その狂気さを支える動機に説得力があるし、何より彼の執念を象徴する「あなたは、誘拐された経験がありますか?」という一言が熱い。
 ネット上をちょろちょろと見ていたら、タイトルの「99%」について諸々の解釈があって興味深かった。私はごく単純に「間宮を容疑者に仕立て上げ損ねた」のが欠けた1%だと思っている。なお、この「機械仕掛けゆえに不測の出来事に対応しきれない」という点で、ある有名国産ミステリを連想した。
 作中で使われている技術の数々については、殆どの読者が知らないもの(少なくとも発表当時。ただし、中の幾つかは、20年以上経った今でも、その信頼性も踏まえれば、ある種、「近未来SFガジェット」に分類していいかもしれない)なので、こちらが推理を働かせる余地は残念ながら少ない。それでも、肝心要の部分ではきっちり本格している。前半のある章なんて、単なる人物紹介と思わせておいてーーだもんな。
 テクノロジーの面だけ見れば、確かに古びてしまった感はあるかもしれない。だが、この作品の本質はいつまでも古びることなく、今も、そしてこれからも読者の胸を打つ筈だと強く信じている。

banner_01.gif← さほどコンピューター方面に強くない知人に勧めてみたら、読了後曰く「全然古いなんて思わなかった」と言うてました
posted by omsoc at 01:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月26日

「NHKにようこそ!」滝本竜彦

NHKにようこそ! (角川文庫)
NHKにようこそ! (角川文庫)
角川書店 2005-06-25
売り上げランキング : 44931

おすすめ平均 star
star21世紀の傑作
starダメ人間
star鬱小説を気取ったボーイミーツガール

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 ひきこもりによるひきこもり小説、ということになるらしい(巻末あとがきに基づく私なりの解釈)。
 常人とかけ離れた(ひきこもりだもんな)独特の論理(不条理、とも言える)が冴える前半は素直に楽しい。だが、その調子が延々と続くと笑いよりも悲惨さの方が先に立ってしまうんだがなあ、となってしまう後半をどう評価すべきなのか。少なくともエンタメ小説からは逸脱していると思った。『失踪日記』(吾妻ひでお)みたいなものを一方的に想像して読んでみたら、村上春樹の初期小説のようだったーーというので何らかの説明になっているだろうかなってないよなきっと。

banner_01.gif← 当方の解釈では、NHKとは「日本変態協会」
posted by omsoc at 19:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月16日

「もいちどあなたにあいたいな」新井素子

もいちどあなたにあいたいな
もいちどあなたにあいたいな
新潮社 2010-01-20
売り上げランキング : 2233

おすすめ平均 star
star期待はずれでした
star裏切られた気がします
star若い世代はこれをどう読むのだろう

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 大好きな叔母の"やまとばちゃん"が、一粒種の愛娘を僅か生後4ヶ月で失ってしまった。姪の澪湖は叔母を心配するが、やがて気付く。この叔母は、私の知っているやまとばちゃんではない。
 著者7年ぶりの長編は、何を書いてもネタバレになりかねない問題作。これはSFなのか、ホラーなのか、はたまたーーという根本的な疑問すら判然とせぬまま最終章へと雪崩れ込むプロットの妙を久々に堪能した。
 上には「7年ぶりの長編」と書いたが、私がこの作者の小説を読むのは『おしまいの日 』以来、何と17年振り(!)だったりする。新井素子作品から遠のいてしまった理由は非常に単純で、あの独特の文体のせいである。アレを読んだり書いたり出来るのは30台前半くらいまでではなかろうか、というのはかなりの偏見かもしれないが、書いている作者も読むこっちもいい歳だと思うと、恥ずかしさが先に立って仕方がない。中高生向けエロ写真集に手を出すよりも勇気が必要なのである。
 ただ、本作については、メインの語り手が女子大生。その他の語り手もどこか成長し切れていない大人なので、お馴染みの文体が、彼らの幼さに見事マッチング。素直に新井節を楽しむことが出来たので、めでたしめでたし。でも、「あとがき」はいくらかキツかったけどな。

 陽湖が語り手の章は本質的には不要(幾つかの伏線はそこで語られているが、他の章に振り分けることが出来なくはない)なのだが、本筋と離れたところで読み応えがあるってえのは、作者の小説巧者振りの証か。でも、ここを省いて、すっきりとした中編に纏めたバージョンで読んでみたかったようにも思う。

banner_01.gif← 新井素子って生きてたっけ? というのは知人の弁(氷室冴子とごっちゃになっている模様)
posted by omsoc at 00:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月15日

「Another」綾辻行人

Another
Another
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-10-30
売り上げランキング : 3086

おすすめ平均 star
starこれこそ、綾辻さん!
starそうきたか!!
star神か悪魔か、綾辻行人か!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools



 「学校の怪談」をモチーフとした長編。ジャンルとしてはホラーに分類されて然るべきだが、あちこちにミステリー的手法と趣向が凝らされているので、館シリーズを愛する皆さんも楽しめる筈。
 『暗黒館の殺人』同様、かなり大部なのだが、ミステリーとしての要素に重点が置かれなかった分、ストーリー展開に起伏が生まれたせいか『暗黒館』のように冗長と感じることは殆どない。瑞々しい中学生の描きっぷりもナイス。『びっくり館の殺人 』もアララな出来だったのでどうなるかと思ったが、大分復調したという印象。
 「ホラーとミステリーの融合作」としては道尾秀介の活躍が目立つ昨今だが、「若い者にはまだまだ負けんわい」というベテラン作家(?)の心意気が伝わってくるような佳作、という評価でまず間違ってないかと思う次第である。

banner_01.gif← とはいえ、通勤の行き帰りで読むのはちょっと大変であった……
posted by omsoc at 02:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月24日

「チョコレートゲーム」岡嶋二人

チョコレートゲーム (双葉文庫―日本推理作家協会賞受賞作全集)
チョコレートゲーム (双葉文庫―日本推理作家協会賞受賞作全集)
双葉社 2000-11
売り上げランキング : 587419

おすすめ平均 star
star社会派と本格の見事な融合
star岡嶋文学の最優秀作品。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 この作品が出版されて比較的すぐに読み、それ以来の再読なのでーーうわっ、ほぼ30年振りなのか。月日の流れる速さにただびっくりである。
 さて、日本推理作家協会賞を受賞し、岡嶋二人の代表作の一つと評されているであろう本作。だが、正直なところ、岡嶋二人作品としては水準作程度の出来だなあと、約30年前(←しつこい)の初読時に感じたし、その感想は再読した今回も同様であった。タイトルの「チョコレートゲーム」の正体が本作のキモなのだが、これが世間で非常によく知られた「ゲーム」なんだよなあ。しかも、この「ゲーム」というのが、同じ作者の某作品に登場する非常に優れたトリックと相通じるものがあって、アッチを知っていてコッチを読むと、かなりションボリなのである。
 作者の狙いが「そんな『大人のゲーム』を中学生たちがやってしまう」という皮相さを描き出すところにあることは理解できるのだが、それでも長編ミステリーを支える「大黒柱」とするにはちょいと脆弱であった。アリバイトリックやらダイイング・メッセージ(もどき)でつっかい棒を施すような小細工を弄さず、メインのネタだけでスッキリと(多少長めの)短編にまとめればどうなっただろうか。

 その辺りについて、作者自身、少なくとも片割れの一人である井上夢人はよく理解していたと察する。というのは、コンビの誕生から解散までを描いた『おかしな二人―岡嶋二人盛衰記 』において、本作はほぼ完全スルー。推協賞受賞作という大きな栄誉をもたらした作品であるにも関わらず、である。
 この作品、元は、乱歩賞30周年を記念して講談社ノベルズで「乱歩賞作家が新作書き下ろしを上梓する」という企画「乱歩賞SPECIAL」の一作として出版されたものである。「乱歩賞SPECIAL」は4回か5回に分けて数冊づつ発刊され、『チョコレートゲーム』は最後に出版された数作品の中の1つであった。そして、その最後に出版された分は当初の予定日より幾らか遅れて店頭に並んだと記憶している。つまり、相当締切に迫られて書かれた作品であり、練り込みの足りなさは重々承知の上で発表されたものである、というのが私の想像。『遅れてきた年賀状』(『記録された殺人 』に所収)という短編が、やはり不本意な形で書かれたにも関わらず世評が高く、井上夢人は釈然としなかったことが『盛衰記』には記されている。『チョコレートゲーム』の受賞についても、井上夢人は手放しで喜ぶ気になれなかったのだろうか。

 なんだか腐してしまったが、「岡嶋作品としては水準作レベル」かもしれないが、国産ミステリー全体の中で考えれば、決して凡作ではないということは強調しておきたい。ヘンにケレン味のない、いかにもこの作者らしい文体は、ともすると陰惨さのみが際立ちそうな内容を抵抗なく読ませる娯楽作品に仕立てている。また、「小学生がライブドア買って大損」のような近年の風潮を思い起こすと、非常に先見性のある社会派ミステリーとも読める。2010年の今となっては若干古びてしまった作品かもしれないが、30年前に思いを馳せつつ読むのであれば、十分に楽しめる作品だと思う。

banner_01.gif講談社文庫版の表紙絵は思いっきりネタバレ
posted by omsoc at 18:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 本(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。